がん看護専門看護師の先駆者、田村恵子さんが
京都大医学研究科教授に転身

末期がん患者に対する緩和ケアにいち早く取り組んできた「がん看護専門看護師」の田村恵子さんが、2014年1月、京都大医学研究科教授に転身したということを読売新聞(2014年3月29日付)の報道で知りました。その記事によると、看護の現場を離れることに迷いはあったものの、「後進を育てなければ」との思いに駆られて、京大の教授公募に応募したそうです。

私が田村さんの存在を知ったのは2008年に放送されたNHKのテレビ番組「プロフェッショナル 仕事の流儀」でした。その番組の中で、同僚の看護師の方が田村さんの看護について「まねできませんよ」と発言した場面がありました。それを観たときには何とも思わなかったのですが、今になって考えると、田村さんが教授という教える立場に転向したのも納得がいきます。

他の人がまねできないような田村さんのケアは確かにとても素晴らしいとは思いますが、田村さんが培った経験を体系的な知識にまとめて広く伝えていかなければ、田村さんがいなくなったら田村さん流のケアは誰もできない…ということになってしまうでしょう。田村さんのケアを近くでみて、感じて学ぶということが一番良いのかもしれませんが、看護の現場で研修するという余裕はないでしょうし、教えられる人数にも限りがあるでしょう。知識として伝えられる部分には限界があるのかもしれませんが、少しでも田村さん流のケアをできる看護師さんが増えていったら素晴らしいことだと思います。田村さんは本を出版されていますが、映像としてNHK「プロフェッショナル 仕事の流儀」がDVD として残っていることは、看護師の方々にとっても大変良い教材にもなるのではないでしょうか。本では文字の力、DVDでは映像の力によって、学べることがきっとあると思います。

以下は、NHKのテレビ番組「プロフェッショナル 仕事の流儀」を書籍化したものからの引用です。田村さんが「希望は必ずみつかる」と信じるようになったエピソードが描かれています。
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笑顔で旅立った友人に教わったこと

 “希望は必ずみつかる――”。

 私はこの言葉を胸に、日々、がん看護の仕事に取り組んでいます。

 この言葉を教わったのは、10年前に知り合った、秀隆さんという一人のがん患者さんでした。秀隆さんはがん遺伝子の研究者でいらっしゃったので、ある意味、私よりもがんについては詳しい方。初めてお会いした時には、進行した虫垂がんを手術したばかりで、自分ががんになったショックと研究者としても体力的に厳しくなったこと、再発の恐怖もあり、すっかり自分の殻に閉じこもっていました。「自分の人生には何もない。がんになっただけの人生だ」と。私は思いつく限りの言葉で励ましましたが、彼の悲観的な様子は変わりません。「何か、したいことはないの?」と聞いても、答えませんでした。

 その2ヶ月後のことでした。

 「ピアノが好きなんだ」

 秀隆さんはポツリと言いました。私は早速、病院のロビーにあるピアノで演奏してほしい、とリクエスト。彼が演奏してくれたのは、それは美しい『アメイジング・グレイス』のメロディーでした。驚くほど上手だったので、あっというまに患者さんたちの輪ができました。

 その頃から、秀隆さんの様子は変わり始めました。病院に来てはピアノを弾き、そして、自分のしたいことを口にするようになりました。その後、がんは再発。手術は不可能と診断されました。それでも秀隆さんは以前のように後ろ向きになることはありませんでした。

 ヴァイオリンを始めたり、フランス語を習ったり、どんどん自分の世界を広げていったのです。

 また亡くなる1ヶ月前には、「自分の生きた証を残したい」ということから、書きためておられた文章を本にするために、亡くなるその日まで作業を続けていらっしゃいました。

 最期は私の勤めているホスピスで「幸せだった」と笑顔を残して旅立っていきました。

 “希望は必ずみつかる――”

 私は彼から、そう教わったのです。

出典:NHKプロフェッショナル制作班・編『プロフェッショナル 仕事の流儀 2008-2009』ポプラ社

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「がん看護専門看護師」とは、がんによって困難で複雑な問題を抱えた患者、家族等に対して質の高い看護を提供するための知識や技術を備えた、日本看護協会が認定した看護師のこと。身体・心理のケアが難しく、倫理的な問題などを含むがん医療現場において高い専門性をもつ、がん看護のエキスパートだ。

  大阪・東淀川区にある淀川キリスト教病院のホスピスで、看護師長として21人の看護師たちを束ねる田村恵子も、その一人である。ここでは、がんの治療は行わず、苦痛を和らげるための、いわゆる「緩和ケア」をほどこす。終末期のがんに多い体の痛みは医療用麻薬などを使って和らげる。入院するのはもはや治療の余地がないと医師に告げられた人ばかり。まさに、「命の現場」だ。田村はホスピスの現場に立ち続けて20年。がん看護の技術は全国でも指折りで、「日本のホスピスにこの人あり」とも言われている。わずかな病状の変化にも目を配り、気になる患者がいればすぐに病室に向かい、きめ細やかなケアを行う。命の限りを見つめる患者たちも、彼女の前では笑顔になるという。言葉では正確に伝えきれないがんの痛み。迫り来る死への恐怖や後悔の念。田村はそれを「表情」から読み取り、その人たちが穏やかに過ごせるよう、さまざまな手立てを講じる。残された日々をどう生きるか――。ホスピスを舞台に、患者と家族、そして田村は固い絆を結ぶ。希望をつなぐ命のドラマが、そこにある。

出典:NHKプロフェッショナル制作班・編『プロフェッショナル 仕事の流儀 2008-2009』ポプラ社


田村恵子さん 関連刊行物

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プロフェッショナル 仕事の流儀 がん看護専門看護師 田村恵子の仕事~希望は必ず見つかる[DVD]
DVD
がんの患者を最期の瞬間まで支える看護のスペシャリスト、田村恵子(50歳)。 日本に104人いるがん看護専門看護師の先駆者の一人だ。終末期のがん患者は迫り来る最期を前に、死への恐怖や悔しさなど、さまざまな精神的苦痛を抱えている。それをひとつひとつ取り除き、最期まで患者が人生を積極的に生きられるように支えるのが、田村の仕事だ。「希望は必ず見つかる」という、がん看護専門看護師・田村の命の現場に迫る。
余命18日をどう生きるか
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「死を意識するから、生を大切にできるのです」。NHK「プロフェッショナル 仕事の流儀」で放送直後から大反響! 平均入院日数が18日のホスピスで働く大阪・淀川キリスト教病院のがん看護専門看護師による、生き抜き、生き切り、死に備えるための30の話。
がんの症状緩和ベストナーシング
書籍
1がん患者の症状の理解と症状マネジメントの必要性
2症状マネジメントを円滑に行うために
3がんの痛みの発生機序
4がん患者の痛みのアセスメント
5がん患者の痛みの治療法
6がん患者の痛みを緩和させる看護技術
7痛み以外の症状マネジメント他

その他の「プロフェッショナル 仕事の流儀」看護師シリーズ

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プロフェッショナル 仕事の流儀 専門看護師 北村愛子の仕事迷わず走れ、そして飛び込め [DVD]
DVD
医療現場で「専門看護師」という新たな制度が動き出した。生命の危険がある患者と向き合うのが、「クリティカルケア看護」。その第1号の一人として認定を受けた、大阪・市立泉佐野病院の北村愛子。北村の信念は「複雑で困難な現場にあえて飛び込む」。その壮絶で過酷な、命の現場での流儀に迫る。

終末期のがんや神経難病など、重い病を抱えながらも退院して自宅で暮らしたいという人々を支える、訪問看護師のパイオニア的存在、秋山正子。通称“市ヶ谷のマザー・テレサ”。家での療養は、医師や看護師が24時間常駐する病院とは違い、容態の急変への対応や家族の介護疲れなど、さまざまな困難が伴う。秋山はあらゆる手だてを駆使して、病にある人とその家族を支える。都会の片隅で繰り広げられる、絆のドラマ。

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在宅ケアのはぐくむ力
書籍
在宅ケアに携わる仲間たちに贈る「在宅ケアの力」シリーズ第3作。月刊『訪問看護と介護』好評連載中の著者エッセイを全面改稿。2012年に地域包括ケアシステムの新時代を迎えたこの国で暮らし、死にゆくことをサポートする看護専門職のガイドブックとして再編した。地域を、患者を、ケアの仲間たちとはぐくみ合える不思議な力が在宅療養の現場にはある。著者が立ち上げた「暮らしの保健室」の歩みもこの1冊で。

第6回「新しい医療のかたち賞」受賞
本書でその設立の経緯から実践まで紹介される「暮らしの保健室」の取り組みは、第6回「新しい 医療のかたち賞」(医療者・医療機関を中心とした取り組み部門。医療の質・安全学会主催)を受賞しています。 病院と地域をつなぐ健康のサポーターとして、訪問看護師秋山正子さんの活動は広がっています。

【各界から反響】
・上野千鶴子さん(社会学者)
秋山正子さん、このひとは地域で20年も前から訪問看護を実践している。このひとにとっては“あたりまえ"の実践が、このところの施設から在宅へのシフト に伴って急速に注目を集めている。パイオニアとはどの業界にもいるものだ。時代がこのひとに追いついたとき、そのひとにとってはあたりまえのことが、“時 代のお手本"になる。

・大野更紗さん(作家/難病当事者)
本書は,秋山正子さんの実践の模索の記録であるが,これは1人のスーパーナースの特殊な物語ではない。どんな病や障害を抱えても,人は皆当たり前に,地域 で生きていく。この正論に「否」を唱える人はいないが,日本社会はそれを実現するための途上にあり,産みの苦しみの中にある。地域医療の実践に悩む人たち にとり,本書は共にたたかう仲間,寄り添う友人となるだろう。

・勝原裕美子さん(看護師・聖隷浜松病院副院長兼総看護部長)
秋山さんは,なぜそうなるまで在宅のことが理解されないのかを「一緒に考えてみませんか?」と問いかけているのだ。それは,まるで私に向かって投げられた直球のように響いた。

・佐藤元美さん(医師・一関市国保藤沢病院病院事業管理者)
たまたまなのだが,中島みゆきの「帰れない者たちへ」を聴きながら本書を読んでいたら,ちょっと涙ぐんでしまった。この曲は松本清張原作のテレビドラマ 『けものみち』の主題歌であった。帰れないのは施設や病院から帰れないのではない。それは知っていても,帰れない者たちの悲哀は共通している。何に,どこ に帰れないのか。故郷へ,職場へ,家庭へ,地域へ帰れない者の悲しみである。普通に暮らすことを断念したつらさである。
在宅ケアのつながる力
書籍
「いのちを支える」のが、在宅ケアの仕事。「いのちを救う」ことで精いっぱいの医療のなかで、病や老いとともに生きることを支えるために多くの人とつながって、大きな力を生み出していきたい――(プロローグより) 『在宅ケアの不思議な力』に続く2冊目の本書。「不思議な力」によって起こった各地の動き、そこで生まれた出会いの数々。訪問看護師たちが主催した「まちをつくるシンポジウム」(第四章)の、ターミナルを支えたケアの専門職・家族・友人の語りからも、生きることを支えるためにつながったケアの魅力が伝わってくる。
在宅ケアの不思議な力
書籍
医療・福祉・介護にかかわる専門職をつなぎながら、地域住民を巻き込み、さらにネットワークを広げ続ける著者が、在宅ケアにかかわるすべての人たちに伝える思い。
家で死ぬこと、考えたことありますか?
書籍
現在、日本で在宅で亡くなる方の割合は2割以下、約8割の人は病院で生を終えます。でも、できれば住み慣れた自宅で、できるだけ長く過ごしたい、と考える人は決して少なくありません。 本書では、重い持病を抱えていても、配偶者が寝たきりでも、1人暮しの人が、その人らしい生活を保ちながら最後まで自宅で生きることを選んだ人たちをご紹介しながら、在宅医療や訪問看護の世界からできることをまとめました。また、在宅の生活を充実させる生活ケアの方法も満載です。 在宅ケアを知りたい、在宅ケアを始めたいと思う方に最適の1冊です。

 

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